チャシウ・ヤル近郊に展開する砲兵部隊(2024年4 月・撮影:玉本英子)

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◆第56独立自動車化歩兵旅団・砲兵部隊(ドネツク州チャシウ・ヤル近郊)前編

熾烈な戦いが続くドネツク州チャシウ・ヤル。ロシア軍の攻勢の前にウクライナ軍は苦境に追い込まれている。チャシウ・ヤル近郊の砲兵部隊拠点で兵士に話をきいた。2回に分けて掲載。取材は2024年4月末。(取材・写真:玉本英子) 

D-20榴弾砲を操作するミハイロ上級曹長。(2024年4 月・撮影:玉本英子)

◆ランセット・ドローンの脅威

一軒家が並ぶ農村の村々を抜けて、緑の丘陵地帯を車で進む。丘のふもとから木立をかきわけて上がった先に、第56独立自動車化歩兵旅団の砲撃拠点のひとつがあった。チャシウ・ヤルから7キロの地点だ。

砲撃任務につくミハイロ上級曹長(42歳)が、力強く握手してくれた。ここから前方の戦闘歩兵部隊を砲撃で側面支援し、ロシア軍拠点の目標を狙う。

152mm砲弾を手にする砲手。ドローンが飛来しないかと頻繁に上空を警戒していた。(2024年4 月・撮影:玉本英子)

玉本:ここに布陣する砲兵部隊のおもな任務は何ですか。

ミハイロ曹長:

「ロシア兵と直接接する前方の戦闘地帯に砲撃を加えます。偵察ドローンを運用する我々の情報部隊が伝えてくる座標位置をもとに砲弾を撃ち込みます。また、別の位置にいるMLRS(多連装ロケットシステム)の部隊とも連携しています。限られた資源で、使用可能なものは最大限投入する。それ以外に選択肢はないですから」

 

玉本:この前線では、ロシア軍はどのような戦術、戦法を使うのですか。

ミハイロ曹長:

「砲撃戦について言えば、ロシア軍は大砲やMLRSを駆使し、それに偵察ドローンと、攻撃型ドローン・ランセットを組み合わせて攻撃してきます。とくにランセットは脅威で、恐怖を肌で感じています。こちらはつねに位置を変え、発見されないようあらゆる偽装をしますが、他方、敵も同じようなアルゴリズムで動いています。ここでは、先に相手の位置に気づいた者が、即座に攻撃する。それが勝敗を分けます」

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榴弾砲の上を覆うドローン除けの防護フェンス。戦車や装甲車もフェンスがかぶせられるようになった。兵士たちは、この防護フェンスを網焼きグリルになぞらえて「グリル」と呼ぶ(2024年4 月・撮影:玉本英子)
ロシア軍は砲撃と、偵察型ドローンと攻撃型ドローン・ランセットを組み合わせて攻撃する戦術を使う。とくにランセットが兵士を苦しめていた。(2024年4 月・撮影:アジアプレス)

玉本:ドローンの音が聞こえたら、どう対処するのですか。

ミハイロ曹長:

「とにかく身を隠します。むやみに撃ち落そうとすると、逆にこちらの位置を知られます。砲兵は、ドローンの音が聞こえたことを報告し、対処するのは歩兵と防空システムです。また電子戦装置によって、このエリアのどこかにドローンが侵入したら情報が入ります。もし、ここが見つかれば、集中砲撃を受けます。前の陣地はそれで狙われ、やられました。その時は砲撃されてから1時間後、ランセット・ドローンも突っ込んできた。ドローン除けの防護ネットがあったので、大砲はなんとか被害を免れました。砲兵は敵との近接接触戦には参加しません。砲兵が小火器で目の前で敵と直接交戦する事態は、砲兵にとってはすでに戦闘で敗北した状況を意味します」

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空高く飛ぶ鳥の姿も、近くを飛ぶ昆虫のブーンという羽音も、ドローンではないかと警戒してしまう。ドローンが兵士を苦しめる。かつての戦争ではなかった状況だ。(2024年4 月・撮影:玉本英子)

玉本:ロシア軍は指揮系統も乱れていて、非効率な兵器運用をし、兵士の士気も低いという報道もあります。あなたの個人的な経験から実際はどうなのでしょうか?

ミハイロ曹長:

「まったく事実ではありません。ロシア軍は非常に強力で、手ごわく、深刻な敵です。大量の兵器・物資と人的資源を持ち、それを運用する高度に組織化された軍隊です。部隊によっては、我々よりも厳格な規律を維持している。ゆえにウクライナは守勢にまわっているのです。侵攻が始まった当時と現在では、大きな違いがあります。当初、ロシア軍は自身の能力を過大評価し、我々をあなどっていました。現在、彼らはその過ちを修正し、克服しています。もしロシア軍が無秩序で弱いというなら、なぜ我々はいまも彼らを追い出せずに苦しい戦いを強いられているのでしょう」

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